研究紹介
当研究室では,薄膜材料を使った電子デバイスの開発とそれに関係する基礎研究を行っています。ここでいう薄膜とは,数10~数100 nm の厚さの膜を言います。
薄膜を使った応用としては電界効果トランジスタ,ガスセンサ,LED,太陽電池が考えられますが,当研究室が得意とするのは電界効果トランジスタです。
これまで,有機半導体や酸化物半導体の薄膜を使った電界効果トランジスタに関する研究での実績があります。ここでは,研究実績の一部を紹介します。
有機薄膜トランジスタの高性能化
有機トランジスタの電極表面[1] や絶縁膜表面 [2] の制御により,特性向上を目指している。有機薄膜トランジスタは有機膜を塗布プロセスにより作製可能という特長ががある。塗布プロセスによる有機薄膜を作製する場合に,溶液の基板上での濡れ性の制御は重要である。薄膜を得るためにはある程度の濡れ性が必要である。他方,高移動度の有機トランジスタを実現するためには,トラップの少ない絶縁膜表面が求められる。この表な表面は通常,単分子膜を形成することによって得られる。ところが,単分子膜表面は一般に表面エネルギーが低く,濡れ性が低い。そこで,我々は適度に濡れ性をもち,かつ,トラップの少ない絶縁膜表面を実現するため,単分子膜形成後に適度にUV/ozone処理を行う手法を提案した。結果として,UV/ozone処理の時間を制御することにより,塗布プロセスによる有機薄膜を形成することに成功し,かつ,スピンコート法により有機薄膜の作製したトランジスタとしては比較的高い移動度を達成した[2]。
【発表文献】
[1] T. Yoshioka, H. Fujita, Y. Kimura, Y. Hattori, M. Kitamura Flexible and Printed Electronics 5 014011 (2020)
[2] S Inoue, Y. Hattori, M. Kitamura, Jpn. J. Appl. Phys. 61 SE1012 (2022)
半導体/絶縁膜界面評価技術
薄膜デバイスの向上のためには,その性能指標である,移動度の評価 [3] や半導体/絶縁膜界面の評価は重要である[4]。有機薄膜トランジスタは通常のMOSFETとして動作するが,作製プロセスが無機半導体の薄膜トランジスタと異なり,もちろん,絶縁膜表面の状態も異なる。我々は,有機薄膜トランジスタの閾値電圧制御の手法として,酸素プラズマ処理による数~数10Vの範囲で閾値電圧を制御することに成功した。これは,酸素プラズマにより,酸化シリコン膜表面に電子を捕獲するサイトが形成されたためと考えている。こららのサイトの存在,その密度,動的な電子の捕獲について調べることは,デバイス応用上重要である。そこで,MOSキャパシタのキャパシタンス測定からこれらを評価できる手法を提案し,電子を捕獲するサイトのエネルギー準位および密度を評価した。結果として,閾値電圧のシフトに関するサイトは比較的,深い順位にあり,準安定的に電子をトラップしており,また,通常の動作電圧では影響しない高い準位にも電子のトラップサイトが存在することを見出した[4]。
【発表文献】
[3] Y. Kimura, Y. Hattori, M. Kitamura, J. Phys. D 53 505106 (2020)
[4] Y. Kimura, Y. Hattori, M. Kitamura, Jpn. J. Appl. Phys. 59 036503 (2020)
金属/酸化膜表面への単分子膜作製技術
金属膜や酸化膜表面への形成した単分子膜は有機トランジスタの特性向上やガスセンサなどに応用されている。デバイスへ応用する場合,単分子膜の熱安定性は重要である[5]。また,複数の分子からなる複合単分子膜を作製できれば表面状態の制御の幅が広がる[6]。
そこで我々は,長いアルキル鎖の分子とベンゼンチオール誘導体からなる複合単分子膜の作製を試みた。結果的に,片方の分子についてある程度の被覆率の単分子膜を得たのち,他のもう一方の分子の単分子膜を形成する方法により複合単分子膜を得ることに成功した。溶液の濃度と処理時間の積に対する被覆率の実験結果を基に,この作製方法を見出した[6]。
【発表文献】
[5] H. Takahashi, N. Ikematsu, Y. Hattori, M. Kitamura, Jpn. J. Appl. Phys. 59 SDDA03 (2019)
[6] N. Ikematsu, H. Takahashi, Y. Hattori, M. Kitamura, Jpn. J. Appl.Phys. 59 SDDA09 (2019)
光学顕微鏡による極薄膜の可視化技術
簡便かつ短時間に分子オーダーの厚さの薄膜を評価する手法があれば,デバイス応用に有利である。2次元材料の評価では,適した基板を使用することにより,光学顕微鏡によりグラフェンのような 1 nm 厚未満の2次元材料でも観察可能であることが多数報告されている。しかし,材料によっては現在でも観察が難しい。2次元材料の可視化は光学的に予測できる。我々は,観察対象に材料に適した基板を選択することにより,より広い範囲の材料に対して可視化が可能であることを示した。
例えば,アルカンチオールで金表面に形成した単分子膜の存在,また,アルキル鎖に依存したコントラストの観測に成功した[7]。また,可視化が難しいとされているた 2次元材料のh-BNの可視化にも成功している[8, 9]。
【発表文献】
[7] Y. Hattori, H. Takahashi, N. Ikematsu, M. Kitamura, J. Phys. Chem. C 127 14991 (2021)
[8] Y. Hattori, T. Taniguchi, K. Watanabe, M. Kitamura, Nanotechnology 33 065702 (2021)
[9] Y. Hattori, T. Taniguchi, K. Watanabe, M. Kitamura, Applied Physics Express 15 086502 (2022)